業務の棚卸しのやり方|中小企業がAIに任せる仕事を見つける手順(表のひな形つき)

結論AIに任せる仕事は、思いつきで決めるより、いま社内にある仕事を一覧にしてから選ぶほうが外れにくくなります。やることは3つです。担当者ごとに仕事を書き出す、1つずつ「月に何回・1回に何分」を測る、そして入力と出力が決まっている/くり返す/人が確かめられる/入れてはいけない情報を含まないの4つの目印で印を付ける。社員10人前後の会社なら、書き出しは半日〜1日、時間を測るのに1週間が目安です。この記事の下のほうに、そのまま使える表のひな形を置きました。
この記事の要点
- AIを使っていない中小企業の理由の1位は「活用する業務がイメージできていない」(63.4%)。棚卸しは、この「イメージ」を作る作業
- 手順は3つ:書き出す(担当者ごと、動詞で)→測る(月の回数×1回の時間)→印を付ける(4つの目印)
- 最初に任せるのは、月に2時間以上かかっていて、4つの目印がそろう仕事。1つに絞る
- 表のひな形は、この記事の中のものをそのまま使える
なぜ、ツールより先に棚卸しなのか
AIのツールを入れても、どの仕事で使うかが決まっていなければ、使う人は一部にとどまります。
2026年版中小企業白書の概要資料(中小企業庁調査室、2026年6月)によると、2019年以降の省力化の取り組みでAIを活用した中小企業は約3割(30.3%)でした。活用していない企業に理由を聞くと、いちばん多いのは「活用する業務がイメージできていない」で63.4%、次が「活用を推進する人材が不足している」で40.0%です。予算の不足(13.8%)より、何に使うかが分からないことのほうが、ずっと大きな壁になっています(白書が引用する民間の調査)。
使い道の側は、はっきりしています。情報処理推進機構(IPA)が2026年7月に公表した「DX動向2026」のポイントでは、調査に答えた企業のAIの使い道は、文書の要約・校正、文書やレポートの作成、情報の検索・収集が上位でした(割合は「福井の中小企業のAI活用ガイド2026」に載せています)。効果の中身で、この記事に関わる数字が1つあります。「残業時間の削減につながった」と答えた企業は29.2%でした。
つまり、いまのAIが効くのは、文書を読む・書く・まとめる仕事の時間を減らすところです。自社のどこにその仕事があり、月に何時間かかっているかを一覧にすれば、「活用する業務がイメージできていない」状態は抜けられます。それが棚卸しです。
手順1:仕事を書き出す(担当者ごと、動詞で)
最初に、担当者ごとに「している仕事」を書き出します。コツは3つです。
- 動詞で書く。 「経理」「営業事務」のような部署名や役割名でなく、「取引先の請求書を会計ソフトに入力する」「見積書の下書きを作る」のように、何をどうするかが分かる形で書きます。部署名のままだと、次の手順で時間を測れません
- 1週間分の実物から拾う。 記憶だけで書くと、毎日の細かい仕事が抜けます。先週のカレンダー、送信済みのメール、作った書類のフォルダを開いて、そこから拾うと漏れが減ります
- 30分以上のかたまりを単位にする。 「メールを読む」のように細かすぎると数が増えて続きません。「月初の請求書の処理」「週報のまとめ」のように、ひとまとまりで30分以上かかるものを1行にします
書き出すのは、本人が自分で行うのがいちばん正確です。ただ、本人は「当たり前にやっている仕事」ほど書き落とします。別の人が横で「ほかには?」と聞きながら書くと、月に1回しか起きない仕事や、頼まれて断れずにやっている仕事が出てきます。
手順2:頻度と時間を測る(月の回数 × 1回の時間)
書き出した仕事に、「月に何回」と「1回に何分」を書き入れます。かけ算すると、月あたりの時間が出ます。週に1回30分の仕事なら月に約2時間、毎日15分の仕事なら月に約5時間です。毎日の短い仕事のほうが、月に1回の大きな仕事より合計が大きいことは珍しくありません。並べ替えると、はじめて見えてきます。
時間は、最初は本人の感覚で構いません。ただし感覚の数字は、短く見積もりがちです。上位に来た仕事だけでよいので、1週間だけ、始めた時刻と終えた時刻をメモして測り直すことをおすすめします。紙の付箋でも、スマートフォンのメモでも足ります。感覚の数字と測った数字がずれていたら、測ったほうを表に残します。
AI よろづやのデモでは、見本の請求書30枚の読み取りから表への転記までを、AIで約5分で終えました。手作業なら約2時間かかる想定の作業です(詳しくは「請求書30枚の転記を、約5分で」)。この「約2時間」のように、AIを使う前の時間が表に残っていれば、試したあとに効いたかどうかを数字で比べられます。棚卸しの表は、あとで効果を測るための台帳にもなります。
手順3:AIに向く仕事を4つの目印で見分ける
時間の多い順に並んだら、上から順に、4つの目印で印を付けます。4つすべてに印が付く仕事が、最初に任せる仕事です。
AIに向く仕事の4つの目印
4つの中でいちばん大事なのは、3の「間違いを人が確かめられる」です。AIは、もっともらしい間違いを出すことがあります。元の資料と見比べて直せる人がいる仕事なら、間違いは試している間に見つかります。確かめる人がいない仕事は、時間が多くても後回しにしてください。
4の「入れてはいけない情報」は、仕事によっては避けられません。請求書には取引先の名前と金額が載っています。その場合は、会社として使うサービスと、入れてよい情報の範囲を先に決めます。決め方とひな形は「生成AIの社内ルールの作り方」にまとめています。
そのまま使える棚卸しの表のひな形
次の表は、上の3つの手順を1枚にしたものです。担当者1人につき1枚作り、時間の多い順に並べ替えて使います。印の欄は、4つの目印がそろったら「○」を入れます。
業務の棚卸し表(ひな形) 担当者:【名前】 作成日:【年月日】
| 仕事(動詞で) | 月の回数 | 1回の時間 | 月の合計 | 型 | 頻度 | 確認 | 安全 | メモ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 取引先の請求書を会計ソフトに入力する | 1回 | 120分 | 2時間 | ○ | ○ | ○ | △ | 取引先名と金額を含む。使うサービスを先に決める |
| 週報を集めて1枚にまとめる | 4回 | 40分 | 約2.7時間 | ○ | ○ | ○ | ○ | 社内向けの情報だけ |
| 打ち合わせの録音から議事録を作る | 8回 | 45分 | 6時間 | ○ | ○ | ○ | △ | 取引先との打ち合わせは録音の了承が要る |
| 新しい取引先の見積書を作る | 3回 | 90分 | 4.5時間 | △ | ○ | ○ | ○ | 条件が毎回違う。下書きまでなら任せられる |
| 【 】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 |
4つの目印:型=入力と出力が決まっている/頻度=くり返す/確認=間違いを人が確かめられる/安全=入れてはいけない情報を含まない。記入例の仕事と時間は、AI よろづやが作った例です。
記入例の4行を見ると、月の合計がいちばん大きいのは議事録(6時間)ですが、取引先との打ち合わせの録音には相手の了承が要ります。印が4つそろい、すぐに試せるのは週報のまとめ(約2.7時間)です。時間の多さと、試しやすさは別で、両方を見て1つに決めます。
表はExcelでも紙でも構いません。大事なのは、担当者が自分で書き、別の人が「ほかには?」と聞き、1週間だけ時間を測り直すことです。
棚卸しのあと:1つ選んで、前と後の時間を比べる
棚卸しが終わったら、印のそろった仕事を1つ選び、2〜4週間試して、AIを使う前と後の時間を比べます。効いたと分かってから、ほかの仕事へ広げます。この「1つで試す→決まりを作る→広げる」の流れと、福井で使える無料の窓口や補助金は「福井の中小企業のAI活用ガイド2026」にまとめています。
棚卸しを社内だけで進めにくいときは、福井の無料の窓口を使えます。
| 窓口 | 中身 | 時期・状況 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| DX専門家派遣(ふくい産業支援センター) | 福井県内に事務所のある事業者に、ITの専門家を無料で最大3回派遣する | 受付は2026年4月1日〜12月25日 | ベンチャー・DX推進部 0776-67-7416 |
| ふくい働き方改革推進支援センター(厚生労働省の委託事業) | 残業を減らしたい、人手不足で困っているといった相談を、社会保険労務士が無料で受ける。会社を訪問する相談(最大3回)もある | 平日 9:00〜17:00(年末年始を除く) | 0120-14-4864 |
AI よろづやの「AXのみぎ腕」は、この棚卸しから、1つの仕事で試し、社内に根づかせるところまでを、会社の中に入って一緒に進めるサービスです。
まとめ
- AIを使っていない中小企業の理由の1位は「活用する業務がイメージできていない」(63.4%)。棚卸しは、このイメージを作る作業
- 手順は、担当者ごとに動詞で書き出す→月の回数×1回の時間で測る→4つの目印(型・頻度・確認・安全)で印を付ける、の3つ
- 最初に任せるのは、月に2時間以上かかっていて、4つの目印がそろう仕事。時間の多さと試しやすさの両方を見て1つに決める
- 棚卸しの表に残した「AIを使う前の時間」が、試したあとに効果を測る台帳になる
よくある質問
棚卸しにはどれくらい時間がかかりますか?
社員10人前後の会社なら、担当者ごとの書き出しに半日〜1日、上位の仕事の時間を測り直すのに1週間が目安です。全部の仕事を細かく書く必要はなく、30分以上のかたまりだけで足ります。
社員が「仕事を減らされる」と心配しそうです。
棚卸しの目的を、最初に「AIに任せる仕事を探して、残業を減らすため」と伝えてください。IPAの調査では、AIを導入した企業の29.2%が「残業時間の削減につながった」と答えています。書き出した表は、本人と一緒に見ながら決めるのがよいです。
表を作ったあと、何から試せばよいですか?
4つの目印がそろい、月に2時間以上かかっている仕事を1つ選びます。文書の書き写し、議事録、週報のまとめのように、元の資料と見比べて間違いを直せる仕事が向いています。試す前に、AIを使う前の時間を表に残しておいてください。
出典
- 中小企業庁調査室「2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年6月、RIETI BBLセミナー資料)
- IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」(2026年7月16日)
- ふくい産業支援センター「DX専門家派遣事業」
- 厚生労働省委託事業「ふくい働き方改革推進支援センター」
監修:静木銀蔵(合同会社BWH総合研究所 代表)
About
AI よろづやについて
AI よろづやは、福井の会社のAI活用を、共に前に進めるサービスです。研修も、制作も、現場の推進も、地元でまとめて引き受けます。運営は合同会社BWH総合研究所です。
ご相談は無料です。自社の業務のどこにAIが使えるか、どのサービスが合うかから一緒に考えます。